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BL本や映画のレビューなど。モバイル機器や競馬も好きなのでそういう話題もあるかと思います。

「それは運命の恋だから」月村奎

 昔から変わらずずっと好きな作家さんが何人かいます。

そのうちの一人、というか「好きなBL小説家は?」と聞かれたらまず最初に名前を挙げるだろうというのが、月村奎さん。

そんな月村さんの新刊です。

それは運命の恋だから (ディアプラス文庫)

それは運命の恋だから (ディアプラス文庫)

 

 

社内ではクールを気取る拓海は、本当は恋愛小説みたいにドラマチックな恋に憧れている。しかし待っているだけでは素敵な出逢いもないまま年を重ねていくのみだと気付き、ゲイの恋活パーティーに参加。カップリングが成立した細谷と付き合うようになる。デートを重ねるほどに優しく紳士的な恋人に、幸せいっぱいの拓海だったが、実は細谷はゲイではなかったと知ってしまい…?大人のロマンチック・ロマンス。

 

 今まで手芸作家男子など乙女趣味でウジウジした受を何人も生み出している月村さんですが、今回はなんとロマンス小説愛好男子!

いやぁ、確かにおいそれとオープンにはしない趣味でしょうね。女性が「ロマンス小説が好きです」って言ってもちょっと構えてしまうかもしれない。個人的にはロマンス小説に限らず翻訳小説があまり得意ではないので(文体と世界観になじむまで時間がかかる)ロマンス小説の知識もなく、なんとなく「金髪でキラキラした王子様的なクサい台詞をはく白人とドレスを着た世間知らずの超美人な箱入り娘のお話がデフォルトなんだろうなー」という認識しかありません。でもきっとみんなそうだと思う。

しかし作中で触れられている筋を見ると、18世紀とか19世紀初頭が舞台の女性が社会進出する以前の奮闘や親子関係なども描かれているようで、そういうお話に男性が夢中になっても不思議なところはないと思います。手にするきっかけがむずかしそうですけど。

そんなドラマチックな物語を愛する隠れ乙男な拓海と、細谷のスローテンポな恋模様が心地良かったです。最初の婚活パーティーの誤解が長引かなかったのも良かった。二人以外に全く人間関係が広がっていないのであれば誤解をあとあとまでひきずるのも頷けるけど、第三者が介入すればあのタイミングがベストだなーと思いました。

最近の月村さんはきちんと致すところもお書きになるので、昔の朝チュン的な作風を知っている身としては些か照れてしまいますが、そこも含めて楽しく読めました。

月村さんというと受のウジウジ具合に注目してしまいがちですが、攻もなかなかどうして、偏執的なところがありますよね。今回は単純に溺愛系ですが、拓海に夢中でわりと周りが見えなくなっているところがあって「恋愛してるなー!」と思いました。

アラサー社会人カプでも、こういう恋愛のソワソワ感は大事です。

サブカプの北村×慎吾もいいですね。慎吾は健気と言えば健気だけど、自分に自信がないのかなという気もします。もうちょっと長く読みたかったです。開き直った北村はぜったい溺愛デレデレ攻になりそうで、何のオチもないイチャラブでも良いから読みたかった……。月村さんは商業誌以外の活動をされていないので、読める機会は巡ってこないだろうなとちょっと寂しいです。