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映画鑑賞料金は高いのか?

先日のアカデミー賞で韓国の作品「パラサイト」が作品賞を始め4部門で受賞したことをうけて、

「日本の映画鑑賞料金は高すぎるのではないか?」

という話題が盛んになっています。

率直に申しますと、たしかに高いと思います。

面白いかどうかも解らない、しかも二時間も自分の身を拘束される訳ですから、時間に追われる現代社会において釣り合わないなと感じてしまうからです。世界と比べてトップクラスに鑑賞料金が高いというのもあります。

一方、何十人もの俳優が、何百人もの制作陣とともに年単位で作り上げた作品に対して支払う金額、と考えると安すぎる、とすら思います。

要は捉える視点によって高くも安くも思えるという事ですが……。

 

映画館へ足を運ぶには、単純に鑑賞料金以外にも様々なお金がかかります。交通費だったり、飲食代だったりですね。映画館はどこにでもあるので見たいと思い立った時にすぐ見られるイメージがありますが、特定の作品を見ようと思うと時間が合わなかったり近所の映画館では上映していないこともしばしばで、その為に他の予定をやりくりする事も目には見えませんが経費に含まれるでしょう。

そういった様々を乗り越えて映画館にたどり着き、作品を見た結果つまらなかった経験が映画鑑賞料金を「高い」と思ってしまう理由のひとつだと思っています。

また、映画鑑賞料金は全国一律ですが、映画館は東京に集中しており、映画館へ行く事へのハードルが住む地域によって大幅に異なる事も問題のひとつだと思います。

映画館への往復で一日費やす、なんていうのも地方によっては珍しくない事で、距離が遠ければ当然交通費も嵩みますし、たとえ映画館がサービスデーなど設けて数百円値引きしようとも焼け石に水です。

細かい話ですが個人的な環境で言うと、ミニシアター系の作品を見るために都内の映画館へ行くには交通費が1600円ほどかかり、例えばサービスデーで1100円で映画を見たとして3700円もかかります。数字にすると高さを実感しますね。ちなみに都心へ向かうのとは反対方面にもミニシアターが存在していますが、そちらへ行くにもほぼ同額の交通費がかかります。

23区内に住んでいて定期券を持っていれば往復の交通費でせいぜい500円くらい余計に出るくらいだと計算しますが、サービスデー1100円にプラスしても1600円、通常鑑賞料金1900円で計算しても2400円です。交通費の負担は大きいです。これは一人の計算ですが、映画は複数人で観に行く事も珍しくないのでさらに倍、ということになります。

映画鑑賞料金以上に、この映画館数格差というのが映画館離れを起こしている理由だと思います。

もっとも、コンサートなどの興行についても同様だと思うので簡単に解消される問題ではないのですが、映画館に行くまでの労力と金銭的負担に差があるのは大きな問題だと考えます。

 

それから、昨今は配信サービスの充実で新作に拘らなければ自宅にいながらにして映画鑑賞が出来る点も大きな要素でしょう。今話題のサブスク、配信サービスではサブスクが主流な点も大きいでしょうね。つまらないと感じたら途中で切り上げて他の作品を見れば良い。映画館だとそうはいきませんし、繰り返しになりますが、料金以上に「自分の時間を無駄にさせられた」ことへの怒りが鑑賞料金を「高い」と感じさせてしまうのだと思います。

それから、無形のものに金を払うのを嫌う、という国民性も理由のひとつだと思います。映画に限らず、美術館へ行くこと、コンサートや演劇に行くことを趣味としていると「腹の足しにもならないのに勿体ない」という言葉を言われたことは一度や二度じゃないと思います。何かを鑑賞する時間を買うというのは、物質として収集することが好きな国民性とも相反していますし、発言した方に悪意はないのでしょうが、こういう言葉を投げつけられる事によって、鑑賞行為を趣味としている人間も「高いんだ」と思わされてしまう、という側面があると思います。

そう。ここはけっこう肝だと思うのですが、映画を好んで鑑賞する人間までが「映画は高い」と発言をすることによって「映画をよく理解していて隅々まで楽しんでいる人すら高いと感じるなら、時代背景もよく解らずに見る門外漢の自分にはますます高いに違いない」と普段映画館に足を運ばない人たちに思われてしまう、という負の連鎖が起こっているのです。

 

去年私は160本、映画館で映画を見ました。160本見るとなると単純に費用が嵩んでいるので「高い」のですが、160本ともなると「面白いと感じる最低限の保証」も担保されにくくなり、結果として「映画は高い」となるのです。

160本もの作品全てに好きな俳優が出ていることはまずないですし、監督や脚本家(その他撮影監督や音楽監督など)に広げてみても難しい。なんなら出演している俳優の一人として知らないという作品を見る機会も少なくないので、好みと合わずに観賞後「高かったな」と思ってしまうこともなくはなかったです。

逆に料金のことが全く気にならないくらい面白い作品もいくつもあり、複数回見た作品も一つや二つではありません。予告など情報をある程度はチェックしてから見ているというのもありますが「わざわざ新作料金で見なくてもよかったかな〜」と思った作品は全体の二割程度でしょうか。

私の場合はですが、この二割によって「映画は高いな」と感じてしまっているということですね。それでも映画館に足を運ぶ理由は自宅では集中して見られないという私自身の適性と環境、それから公開後に配信やレンタルで見られるという保証がないからです。(ちなみに配信サービスにはAmazonプライムNetflixの二つ、WOWOWとスカパー!に加入しており、いわゆるレンタルビデオ店はほぼ利用しません)

 

映画館で映画を見る平均回数というのは統計上、日本では1.3回、同じ年の韓国のデータは4.2回(2016年)でした。つまり大体の方は年に一度観に行くか行かないかということで、その一回の鑑賞体験で全てが決まってしまうということです。作品が満足のいくものでなければ「高い」と感じてしまうのは当然のことですが、俎上にあがるサンプル数が少なすぎるので公平な印象とは言えません。

ですが、日本の経済が冷え切っていることに加え、無形のものに金をかけることが苦手とくれば「他の作品を見てみよう」とならないのも肯ける話で、結果としていつまで経っても「映画は高い」という印象のままになる訳です。

しかしそもそも映画は娯楽なわけで、高すぎて嫌だ、という思いを抱いている人に見ろと強要するようなものでもありません。

 

一方で、流行りものにはすぐに乗る国民性でもあるので、アナと雪の女王のように大流行すれば観に行くという方は大勢いますね。今回のパラサイトも同様でしょう。パラサイトは素直に面白いし大変パワーのある作品だと思うので見に行って損はないですが、どの作品を見るか決断をする能力も鑑賞に不慣れな日本人には難しい、という問題もあります。

これは本当に不思議なことではありますが、金が絡んだ途端、面白いかどうかを決めるのは自分ではなく周りの評価に委ねてしまうという人が多いです。

どういうことかと言うと、例えばテレビドラマは「面白いから見る」という選択を容易にする事が出来ます。つまらないのにいつまでも見続けることはしません。同様に、テレビや有線などから流れてくる曲に対しては素直に「良い曲だ」と言えるのです。

ですが、「金を出してCDを買う」「金を出して映画を見る」となると、「損をしたくない」という感情が働いて自分で下した価値では不安になってしまい、外部の評価(分かりやすいところで「アカデミー賞受賞!」などですね)に判断を委ねてしまうのです。

ここまで長々と書いてきましたが、この「損をしたくない」というのはずっと付き纏ってくる価値観で農耕民族ならではだなとも思うのですがとても厄介です。

日常で聞かれる「金を出して見るほどじゃないけど面白かった」「金を出して聞きに行くことはしないけど良い歌手だよね」などはその価値観を裏付けています。

そしてこの「金を出して〜」という発言する人の何割が、一度でも金を出して映画を見に行ったか、金を出してCDを買ったか、というと……まず払った事がない人が多数だというのは鑑賞回数データや、CDの売り上げが証明していますね。

 

これらの「損をしたくない」「金を出したくない」「自分では面白いかどうか決断出来無い」と芸術や娯楽にたいして渋い考え方が一般的な日本では、映画鑑賞の料金を600円ほどにしてやっと「映画は高い」という印象を拭えるのかなと思います。多分1000円ではダメです。800円でもどうかなぁ……。

※600円というのは一番安い配信サービスのAmazonプライムとdTVが月額500円なので、そこを基準にあげた数字です。

ですが、そもそも1970年まで遡ってやっと550円ですから、物価も最低賃金も全く違う現代に600円などとは非現実的ですね。

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https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/bizinfo/industry/sangyou/pdf/1048_03_02.pdf

しかし、そう考えると日本人の芸術や娯楽に対する価値というのが微塵も育っていないのではないか、と思えて暗澹たる気持ちになりますね……いや、育っていないんですよね。自分で自信を持って面白かったとジャッジ出来ないのですから。

まぁ日本は一向に勤務時間が短くなりませんし、趣味を持つことそのものが下手な人が多いんだろうなとは思いますが。

贅沢は敵、という考え方も根底にありますしね。

 

確かに、映画は贅沢です。心を豊かにしてくれますから、これ以上の贅沢はなかなかないでしょう。

漫画やアニメ、音楽なども同様です。

それでも趣味を満喫している人間からも「高い」という声が多く聞かれることには、日本人の経済力が低下している証でもありますから、もっと政治にも興味を持たなければいけないのだろうなとも思います。

 

最後にいくつか参考になる図など載せておきます。

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