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BL本や映画のレビューなど。モバイル機器や競馬も好きなのでそういう話題もあるかと思います。

「小説道場」中島梓

寒暖差にやられ風邪を引き、一週間ほど寝込んでいまして少し間が空いてしまいました。皆様お元気でしょうか。今年は花粉症もなかなかヘビーで、風邪との合わせ技で鼻呼吸が出来ず病院の待合室で窒素するかと思いました。

 

そんな中読破したのがこちらです。

新版・小説道場1

新版・小説道場1

 

 懐かしの「小説道場」ご隠居編までの5冊を一気読み。

ボーイズラブというジャンル名がつく前から同ジャンルを愛してやまない者にはお馴染みの雑誌「JUNE」誌上で1984年から1995年までの約10年間連載されていた、投稿作品の批評コーナーをまとめたものです。

「JUNE」という雑誌は小説や漫画の多くは素人の投稿作でした。少ない資金で運営する為など色々理由はあったのかもしれませんが、まだジャンルが確立されていないので当然専業の作家などいるはずもなく、著者の中島梓さんに至っては数種類のペンネームを駆使し何作も作品を執筆し誌面を埋めたりなさっていたという事です。

そして腐女子(こういう概念も言葉もなかったけど)の中島氏は思うわけですね。

自分以外の人が書いた小説が読みたい

と。

これはもう当然ですね。

そんな中島氏のリビドーと編集部の依頼で始まった小説道場はなんと10年間の永きに渡り連載され数多くのBL作家を生み出しました。

「門弟」と呼ばれていた投稿者の中で今も現役で書いている方は少ないですが、現役で代表的な方は秋月こおさん、柏枝真郷さん、佐々木禎子さんなどでしょうか。名倉和希さんも城田みつきのPNで投稿されていたようですね。

今回私が読んだ「新版」では中島氏の批評のみで作品はごく一部を除いて掲載されていないので、当時の空気を知る私でもちょっと退屈してしまうかなーと思ったのですが、杞憂に終わりました。

1巻の最初の頃は基本的な人称などの説明から、どういう心持ちで小説に向き合うかなど執筆をする上で必要なHOW TOなども門弟の質問に答える形で都度説明されていたりして、今読んでも十分に通じる内容で面白かったです。

当時は主に小JUNE(小説JUNE。小説キャラとか小説ディアプラスと同じサイズの雑誌)を買っていて小説道場が連載されていた大JUNE(一般的な漫画雑誌と同じB5判サイズ。漫画や舞台レポ、映画レポのカラーグラビア多め)はあまり買った事がなかったのでもっと厳しい批評をされていた記憶だったのですが、改めて読んでみると絶賛している作品も幾つもありますし、文章の改善点を挙げたり、作品の出来が向上したら本気で喜んでいる様子だったりと、なんていうか愛に溢れていました。しかも今以上にニッチで趣味的な世界にいるという事に中島氏も門弟さんも自覚的だったろうなというのが窺えて、それでも毎月のように何百枚もの、それこそ、そのまま書き下ろし単行本になるくらいのページ数を書いて投稿している門弟さんにも、合計すると月に千枚以上の投稿作品を読んでいる中島氏にも正直圧倒されてしまいました。

上に挙げた方たちの他に単行本デビューやその後プロになった主な門弟さんは石原郁子さん、江森備さん、布刈丸洋子さん、野村史子さん、尾鮭あけみさん、須和雪里さん、鹿住槇さん、金丸マキさん、榎田尤利さん、佐藤ラカンさん等。PNを変えてデビューなさった方もいらっしゃるでしょうし全てではありませんが、それでもこれだけの人数がプロになっているというのは凄いですよね。

だってあの頃、そもそも専業でボーイズラブを書いて食べていけるなどと誰が想像したでしょうか?ボーイズラブなんて言葉が出来るとも思っていなかったし、「JUNE」以外に専門の漫画誌、小説誌が出るなんぞ夢にも思ってなかったに違いありません。

 

ちなみに当時、既に存在は知っていて恐る恐る書店でチラ見した事があった雑誌「JUNE」を私が初めて購入したのは、須和雪里さんの「いつか地球が海になる日」が掲載されていた小説JUNE1992年2月号でした。小説道場でいうと3巻収録の第48回で取り上げられていて、中島氏が「泣いた」と評されているお話しです。私も涙しながら読んだ記憶がありますが、手元に残していないので、今読むとどんな感想になるのかなと興味深いです。須和さん、好きだったなー。

KDPででもいいから補完出来るようになると嬉しいのですが今のところ小説道場登場作品の殆どが(全集も含めて)古本でしか手に入らない状況が少し歯がゆいですね。まぁ当時は単行本が出るなんぞ思っていないので気に入った作品は切り抜いて保管しておくっていうのが常識だったんですよね。

私が読み始めた頃は既に吉原さんの「幼馴染み」が伝説的存在になっていて(二次創作の同人誌も出ていたし)バックナンバーを探しても全然見つからなくて、ルビー文庫から出版された時は

「やっと読めるのか……!」

と感動に打ち震えたものでした。

今のBLももちろん楽しく読んでいます。単行本の真ん中辺りで恋心を自覚して残りのページ数が2割を切るころにはエッチしているというパターン化されているものを当たり前に享受してますけど、昔のJUNE作品にはあっと驚くような作品が多いですからね。特にバッドエンドやメリバエンド好きの人にはどストライクっていう作品も多いんだろうなと思います。

似て異なるものです、BLとJUNEは。

 

ところでこの「小説道場」、1995年に一度中島氏は外れるのですが、その後すこーしだけ復活しており、それが5巻目の「ご隠居編」にあたります。変わってしまったJUNE界隈を嘆いたり新しく出てきたBL漫画を楽しんだりされていますが、投稿作品には全く納得のいく出来のものがなかったようで早々にこのご隠居編は終了してしまいます。

安易に言葉を紡ぐな、と仰っていました。100巻以上の長編をものした作家さんの言葉は重いです。未完ですけど。

 

先日漫画ではありますが「おいちょっと誰かちゃんとチェックしてやれよ」という作品がありましたので最後にそちらをご紹介して終わりたいと思います。

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デュルド…なんと語感の悪い事か。

綴りは「Dildo」ですからね……。

作者が悪いんではないですよ。編集仕事しろ、ですよ。セリフなどで一部分だけ登場するならまだしもWebの単話売りコミックとはいえタイトルになっている訳ですから。

(中身を読んだわけではありませんので、もしかしてデュルドが新種の触手の名前か何かでしたら申し訳ありません)

 

あと最近の作家さんの「違和感を感じる」にも物申したいですが、またそれは別の機会に。